1/22/2006

The tower in the snow


tower01
Originally uploaded by Yoichiro.



昨日は東京は久しぶりに雪だった。僕は前から写真を撮りに行こうと思っていたある塔へと向かった。

本当は空と雲を背景に撮りたいと思っていた。朝起きると雪が降っていて、いつも通勤電車の中から眺めている塔を思い出した。きっと幻想的な風景になっているだろう。午前中の会議の後、その足で赤羽へ。

僕は建築として評価するだけの知識がないので、単純に印象でしか表現できないのだが、コンクリートのシンプルな造形は非常に美しいと思う。雪は全てのイメージを変えてしまうけれど、この塔は雪の日の方が僕の抱いているイメージに合っている。まるでカフカの『城』のようにいつも見えているのに誰もそこへは行けない。そんな感じである。あるいはラプンツェルが幽閉されている塔を思い出させるかもしれない。とにかくあの塔で何が行われているかは誰も知らないのだ。権威や信仰の象徴、どのようなかたちであれ塔は常に沈黙の存在であり我々の生活とはかけ離れた存在である。

しかし、現代にそんな童話的なものが存在しうるのか。タネを明かせばこういうことである。実は、この塔では何も行われていないということだ。正確には塔ですらないのだから。これは、 石山修武氏の設計による東京都北区の清掃工場の煙突である。そこには何もないということである。しかし、この街ではこの塔がケヴィン・リンチがいうところのランドマークであることは間違いない。この街で毎日おこるありとあらゆる出来事の背景にはこの塔がそびえている。

塔とは都市にとってなんであるかという建築家・故内井昭蔵氏の講演をむかし聞いたことを思い出す。うろ覚えだが塔は世界につながる大きな樹の象徴であるといったような話だった。もう忘れてしまったので今解釈すれば、それは僕たち小さな存在を時間的にも空間的にも越えているものが中心にあることにより、我々の存在の錨となり、世界につなぎ止めてくれるということか。そして内井氏が関わった有名な塔のひとつが論争を生んだこのビルディングである。(六本木ヒルズより撮影)

そして答えの見付からないまま沈黙の塔だけが増えてゆく。


another tower
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